とっぴんぱらりのぷ　心をリセットする

子どもが小さかった頃は、市立図書館に通ってたくさんの絵本を借りていました。

夜寝る前に読むのが習慣になっていましたね。アンパンマンの原作絵本は、アニメで見るのとは全く違う印象だったし（お腹を空かせている人を見つけると、アンパンマンは自分の顔の一部をがばっとちぎって、相手に分け与えるんですよね。絵本だとその意味がストレートに伝わってきます）、バムとケロシリーズとか好きでしたね。主のストーリーとは別に、キャラクター毎の小さなストーリーが描かれていて、ページをめくりながら「あのネズミはどこだー」と探しながら楽しんでいました。

そうしてたくさん絵本を借りている中には日本の昔話もありました。日本の昔話は「終わり方」が興味深い。

散々お話を盛り上げておいて、「･･･そんなこともあったよねえ」といった感じでふわあっと濁して終わったりしてね、拍子抜けするのですけど、もともと日本の昔話って口承で継がれてきた民話だからなのですね。

昔話の終わり方でうちの子どもが喜んだのは『とっぴんぱらりのぷ』でした。どの絵本だったんだろうなあ、思い出せなくて残念です。お話の一番最後、きっと「おしまいおしまい」っていうべきところを、『とっぴんぱらりのぷ』という言葉で締めくくっているんですけど、今までの話の内容を吹き飛ばしてしまうくらいの破壊力というか、どんな恐ろしい物語もまるっと収めてしまうくらいの力強さがありました。言葉の意味のなさと、音のかわいらしさについ笑ってしまうらしくて、最後のページだけもう一回読んでくれなんてリクエストされましたね。

どうしていきなりこんな話をしたのかと言いますとね、２日前にここ府中市ではゲリラ豪雨があったのです。急にあたりが暗くなり、豪雨に加えて1センチ以上の大きなヒョウも降って、サロン前の道路が一瞬にして「ラムネ（ヒョウの粒）が流れる川」のようになりました。

ばたばたばたーっと、屋根に大粒のヒョウが当たって騒々しく、我が家の猫たちもなんだなんだと耳を立てて警戒し、窓の外には白いヒョウの球がものすごい勢いで落ちては地面に跳ね返ってはじけ飛んでいまして、思わず手を止めてぽかーんとしてしまう、非現実的な光景だったのです。

そんな景色を見ながら、「ああ、とっぴんぱらりのぷ、だなあ」なんて思ったわけです。

ちょうど府中市ではくらやみ祭りという、この辺りではかなり大きなお祭りの真っ最中でもありましたから、神輿を担ぐ手を止めて、ただヒョウが止むのを待っていた人がたくさんいたことでしょう。私も作業の手を止めて、外の景色をぽかーんと眺めていました。

あのヒョウが降ったときに、楽しい時間を過ごしていた人も、しんどい思いをしていた人も、とにかくみんなそれぞれの人生をそれぞれに味わっている最中に「とっぴんぱらりのぷ」「はい、おーしまい！」と本を閉じて話が終わってしまったかのような、突然の出来事でした。

とっぴんぱらりのぷ、と言って読み終えた瞬間は、そのインパクトある音のせいで絵本の内容もふっとび、私と子どもがここにいることだけが露わになるように感じました。それはきっと「今ここ」というやつですね。怒りがわくのは心が過去にあるから、心配するのは不確定な未来に心があるから。今ここには、怒りも心配もなんにもない。ただ私があるだけだよね。それを十分に感じましょうというのはマインドフルネスや禅の考え方かなあ。

絵本は閉じたら無理にでも終われるけれど、人生はそういうわけにはいかない、ずっと続くんだよ！確かにそうなんですけど、「とっぴんぱらりのぷ」と収めて、こころをいったんリセットして仕切りなおすというのはなかなか面白いなあなんて思った次第です。

もし映画が好きなかたでしたら、『マグノリア』というアメリカの映画がちょうどこの「とっぴんぱらりのぷ」が起こるので観ていただきたいです。

物語の終盤で「カエルの雨」が降るんですよ。マジのカエルです。登場人物たちはその雨をぽーっと眺めるシーンが（たしか）あります。あのカエルの雨には善悪や幸不幸、憎しみ悲しみ過去未来全て飲み込むインパクトがありました。

今調べたら1999年の映画でした。20年も前ですか(*´Д｀)記憶に自信がないので見返してみようかな。